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「食の科学」「五穀米」を商品化、流通ネットに新風を起こす

2006.09.15

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「食の科学」に掲載されました。

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「五穀米」を商品化、流通ネットに新風を起こす

父母の死の衝撃から、健康志向の米屋へと変身

千葉県君津市の小高い新興住宅地に立派な蔵づくりの米屋さん、石川商店がある。その社長・石川善雄さんは昭和52年に父の米穀商を引き継ぎ、23歳の若さで社長に就任している。

社長に就任するキッカケになったのは、父親がくも膜下出血で倒れなくなったからである。また3年後に、父方の叔母さんも同病で亡くなり、さらにその3年後には今度は母親をガンで亡くしたからである。身内や親戚の相次ぐ不幸に衝撃を受けた善雄さんにとって、「健康」が頭の中で大きなテーマになっていった。

そして、しばらく経った昭和63年のある日、店舗や事務所を建て直そうと計画した折りに、その設計を依頼した設計士から、「玄米、雑穀を主体に健康提案の店づくりをしてはどうか…」と言われたのである。それまで、「コメは精米して食べるもの」とばかり思い込んでいた善雄さんにとって、その言葉は第二の衝撃として胸を打つことになった。なぜなら、善雄さんは料理が得意だったので、毎食、白米や肉を栄養あるものとして両親に食べさせていたからである。

「米屋なのに、いや、精米の技術が自慢の米屋だったかたこそ、私はずっと玄米や雑穀をバカにしていました。あの言葉で生まれて初めて玄米を食べてみたのですが、美味しく感じただけでなく、これこそが人間が食べるべき本物の食物ではないかと思ったのです」

玄米、雑穀の美味しさ、大切さに目覚めた善雄さんは俄然、「食と健康」への勉学意識が沸き立ち、独学で勉強を始めることになった。そんな中で出会ったのが、国際自然医学会(森下敬一会長、お茶ノ水クリニック院長)の「自然医学」で、同会の通信講座を受けて「フードコンサルタント」の資格を取得、また日本健康指導研究会の「健康指導師」の資格を取得したりと、単なる米穀商から「食生活を指導できる米屋」へと大きく方向転換したのである。

ちょうどその頃、食管法が改正され、コメの安売り店も続々誕生して、米穀商としての方向を決めなければならなかった時期とも重なり、石川善雄社長は「医食同源」路線に突き進むことを決意したのである。

「医食同源」の試行錯誤の結果、玄米・雑穀の「五穀米」を商品化

「森下自然医学」では主食は玄米6割にアワやヒエ、ハトムギなどの雑穀を4割入れた「玄米雑穀ご飯」の常食を推奨しているが、雑穀の混入加減によって味は微妙に変化する。言うまでもなく、雑穀を「商品化」するとなると、万人に受け入れられる味にしなければならない。以後、善雄さんの試行錯誤が始まったが、ついに3合真空パック(圧力鍋、マイコン炊飯器用)を作り上げ、「五穀米」の名前で商標登録することにした。「五穀米」とはいえ、この中には玄米、丸麦、ハトムギ、大豆、小豆、黒豆、アワ、ヒエ、キビの9種類が入っている。

この商標登録は、今から考えると、「大変ラッキーだった」と善雄さんは振り返る。名前は平凡なので既登録者がいるように思われたが、当時は「1日30品目の摂取を」言われる副食重視の時代だったため、まだどの会社も座国に手を付けていなかったからである。

国産ものにこだわった原料、取扱い商品は残留農薬ゼロのものだけ

そればかりではない。すべて原料は国産ものにこだわったところに、石川商店の特異点がある。コメは我が国ではほぼ100%自給できる「国民食」だが、雑穀となると軒並み一桁代に落ちる「希少食」である。現在、アワ、ヒエ、キビの国内自給率は3.5%、ハトムギは6.5%、大麦・裸麦は8.7%と言われる。こんな自給率の低い国産雑穀をどのようにして手に入れることが出来るのだろうか?

石川商店では、本業の米穀商として早くから全国のいろいろな農家とのパイプ作りに努めてきたことが功を奏し、意外に短時間で必要なものをすべて揃えるえることが出来た。最近、輸入物を「国産」と偽り、摘発される事件が後を絶たないが、石川商店では「偽りは信用の最大の敵」として、残留農薬ゼロのものしか扱わない様にしている。取扱い商品は127種類もの残留農薬検査で、一切検出されていない。

しかも、念には念をと、手による選別作業も実施している。さまざまな形状を持つ雑穀の異物除去は、色彩選別機と金属探知機を使って行われているが、これとて万全とは言えない。そこで石川商店では専用スタッフが精製室での気の遠くなるような手による選別作業を行い、異物の除去に努めている。

こうした「食と健康」をテーマに掲げたユニークんば米穀経営が評価されて、平成2年(1990年)には(社)日本米穀小売振興会主催の「第一回優良米穀小売店全国コンクール」で見事、農林水産大臣賞を獲得している。

農林水産大臣賞

「栄養豊富な五穀」所品を続々と開発、かつては自然健康食品店の看板も

以後、「五穀米シリーズ」の本格的な商品開発に乗り出し、これまた試行錯誤ののちに、ついに一番おいしいと思われる配合比率を発見、それをレトルト商品化した。「五穀米ごはん」「五穀米おかゆ」は「美味しい」うえに、「しかも栄養豊富!」がセールスポイントで、事実、栄養価は同量の白米と比べて、エネルギーは126キロカロリーで白米の0.75倍なのに、ビタミンB1は0.08mgで4倍、カルシウムは10.5mgで3.5倍、鉄は0.73mgで7.3倍、食物繊維は2.7gで9.0倍も含まれている。

今日、新規開発した商品は、13種類の玄米、雑穀を白米にブレンドした「福っくら御膳」や「福っくら御膳もち」、「五穀米ぱん」「玄米胚芽クッキー」など多彩である。店内には無添加の醤油や味噌、みりんなどの調味料もたくさん置いてあり、店内に一歩足を踏み入れると「自然健康食品店」と錯覚するくらいである。かつて、「ナチュラルマート君津店」として看板を出していたこともあったという。

流通業者として消費者の声を代弁、日常の無農薬米は廉価に設定

しかし、本業は米屋さんである。店内の右側は通常のお米屋さんと同じく、産地のコメが生産者の顔写真とともに袋ごと置かれている。しかも驚くべきことは、そのコメは無農薬米、有機栽培に拘らず、通常の米屋さんと変わらない価格設定になっている。どれも1kg630円~760円までで、信じられないほど廉価である。これについて、石川善雄さんは、「消費者は少しでも低価格で良いものを手に入れたい訳ですから、流通業者の我々は消費者の声を代弁しなければなりません。仮に一時、高価格で出回ったとしても長続きしなければ安定的な生産と供給がともにできないわけで、そのため生産農家には価格をなるべく抑えてくれるように強く申し入れています」という。

せっかくの安全で高品質なコメが価格の障害によって循環しなければ全く意味が無いとする考えで、これは長年米穀商をやってきた善雄さんの信念でもある。もちろん、特に雑穀は病害虫の影響を受けやすい敏感な作物であるだけに、万が一のことが生じた場合には、最低補償をするなど生産農家にばかりリスクを背負わすことのないよう、一方での配慮は欠かしていない。

現在、石川商店の売り上げは従業員10人で年間約3.5億円。消費の内訳は、家庭用が90%、業務用が10%。そのうち、店売りが20%、配達30%、仲卸(通販など)が50%である。店売りが意外に低いのは「お客様の中で調味料までのこだわりを持った人はまだ少なく、紹介の人がほとんど」だからという。

「全国・米食味分析鑑定コンクール」で昨年度、取扱い品目が受賞の栄誉

ところで、「米・食味鑑定士」という資格をご存じだろうか?ワインのソムリエ、日本酒の利き酒師は我が国ではよく知られているが、実は石川善雄さんは「お米のソムリエ」と呼ばれる「米・食味鑑定士」なのである。これは現会長の鈴木秀之さんが、それまで地方で組織してきたコメ支援グループでは限界があると感じ、新たに全国的な資格制度を設けて、その存在感を示そうと「米・食味鑑定士協会」を設立し、平成10年6月からスタートした資格制度である。

今年の4月時点で、有資格者は全国に432名いるが、石川さんは協会設立の翌年に試験を受け、67番目の番号を取得している。

協会では、新米が出揃った11月に毎年場所を変えて「全国米・食味分析鑑定コンクール」を実施している。審査員は「米・食味鑑定士」を中心に、一般人、学識経験者なども交えた30~40人で、機械による食味測定(玄米、白米ともに85点以上)の第一次・第二次審査とがあり、総合部門、品種部門双方で金賞、特別優秀賞が選ばれる仕組みになっている。

昨年度、山形県の川西町で開かれた「コンクール」には、1043品の応募数があり、第一次審査をパスしたのは総合部門39件、品種部門39件。その中から、さらに金賞(総合部門11件、品種部門10件)、特別優秀賞(総合部門29件、品種部門16件)が選ばれた。なんと、石川商店で取り扱ってきた7品目が、見事受賞したのである。中でも、福島県会津盆地の北側にある熱塩(あつしお)加納村の「ネットワークいのちの米」の熱塩コシヒカリが金賞を獲得。昨年の審査員に石川さんも参加したが、選考は審査員総意による決定で、個人の恣意を差し挟みこむ余地は全くない。したがって、石川でんの「確かな舌」と長年に渡る農地開拓の努力がより客観的に評価された、ということになろう。

石川商店では受賞米を早速「金賞米シリーズ」として製品化し、大々的にアピールすることにしたが、取扱い全20品目のうち、厳正な審査の結果、受賞した品目はこれまでに昨年分も含め8品目にも及んでいる。

石川さんは数々の栄誉実績を胸に、次のように語る。

「受賞米はまだ生産量に限りがあるので需要はまかないきれませんが、減農薬や無農薬米は消費者に確実に支持されていますから、こうした諸費者ニーズを重視し、それを伝える米穀店の数が多くなれば良いと思います。そうしたネットワークづくりに努力していますが、そうしたネットの広がりによって生産農家との結びつきが深くなれば農家も安心して規模拡大を図れますし、その意味で環境保全型農業を維持・発展させていくのは、我々、流通業者の使命と思っています」と。

今回、取材させて頂いて感じたことは、流通業者の重要性である。「生・流・消」三者の仲立ちを流通業者がしっかりと果たせば、農家の安定生産と消費者の健康がともに守られるのではないか、という希望である。その意味で、流通業者として先駆者的な役割を演じている石川善雄さんの即席を大いに見習うべきを感じた次第である。

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