「びれっじ」農村と都市を結ぶ人たちに掲載されました。
今どき、こんなに元気なお米屋さんがあるとは思わなかった。無名でもおいしい米を全国で発掘し販売。玄米や雑穀を使ったオリジナル商品は通販誌や大手デパートでベストセラーを記録。従業員10人で年間2億円を売り上げる。「ウチも昔は、ごく普通の米屋だったんです。それを変えたのは、父と母の死でした。私は料理が得意だったこともあって、毎食、肉料理をつくって両親に食べさせていたんですよ」
ところが、父は77年脳溢血で亡くなり、ほどなく母もガンと診断される。石川さんは猛然と”食と健康”について勉強し、和食の中でも穀物の力を知る。「米屋なのに、いや、精米の技術が自慢の米屋だからこそ、私はずっと玄米や雑穀をバカにしてきました。ある時”石川商店さんは玄米を扱わないんですか?”とお客様に言われ、生まれて初めて玄米を食べたのです。そうしたら、おいしいだけでなく、自分の身体が喜んでいるような感じがしたんです」
ちょうど食管法が改正されて米の安売り店が誕生し、米屋の進む方向を考えねばならぬ時期でもあった。石川さんは「穀物を通して健康を提供しよう」と決意。”五穀豊穣”という言葉で知られる五穀(米・麦・豆・あわ・きび・又はひえ)をおいしく食べてもらおうと、試行錯誤を重ねて「五穀米🄬」を開発。これがじわじわと売れ始めた。さらに「福っくら御膳🄬」など商品が増えると、新たな問題が出てきた。「原料となる良い穀物が足りなくなってきたんです。そこで全国の産地を訪ね、消費者のニーズを説いて回ったんですよ」
産地を回るうちに、おいしい米を作る農家に共通する点が見えた。「農薬や化学肥料なんか使わなくても、じっくりと稲を見て、必要なタイミングで稲が欲しがっている栄養を与え、手入れすれば、良質の米をたくさん収穫することは可能なんです」
現在、田んぼ一反の収量は平均8俵といわれる。しかし稲と会話するように丁寧に育てれば、12俵は収穫できるという。「農家は、どうしても今までの作り方に固執します。私は販売者だから、一歩下がった立場で”より良い米づくり”を提案できます。冷笑する農家も多いけど、私は日本中の産地を見て、お客さんの声を聴いていますから、確信があるんです」
こんな時代だからこそ、米屋には存在意義があると、石川さんは強調する。「私がやっているのは、食に対する信頼の回復かもしれません。食べ物というのは、高く売るものではないブームに乗ってつくるものでもない。もちろん質を落として安売りするなんて、もってのほかです。適正な利益を得ながら、安定供給すること。そのためには、私たち販売者が消費者の声に耳を傾け、生産者にそれを伝えないといけない。日本の農業を活性化し、消費者と生産者のネットワークを築くことが、私の役目だと思っています」